大判例

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高松高等裁判所 昭和61年(う)290号 判決

各論旨は,いずれも要するに,「原判決は,従来,徳島市の競売入札において,名実ともに自由競争による入札が行われれば,落札価格は,最低制限価格に等しくなるか,これを僅かに上回る金額になる可能性が大きかったし,本件においても自由競争が行われていたならば,最低制限価格である4982万円に等しくなるか,これを僅かに超える金額にとどまったはずであるとして,公正な価格を害する目的があったとし,また,赤松案を実施した場合,松下建設は名義上の請負業者として落札価格の3パーセントを取得し,本件工事に関する出損はほとんどないから,これが不正の利益であり,これを得ようとする目的があったものと認定している。しかしながら,本件においては,公正な価格を害し,または不正な利益を得る目的はなかった。すなわち,徳島市の工事における予定価格は,業者の利益があまりあがらないように定められており,まして最低制限価格ではかなりの損失が出るのが現状である。このような場合に,原判決のいうように,本件において自由競争が行われれば,最低制限価格に等しくなるか,これを僅かに上回る金額になるというためには,最低制限価格で入札しても,本件工事により損失を出さないような特別な事情を有する業者または採算を度外視して本件工事をしなければならない例外的な業者が存在したことが認められなければならないが,原判決はこれを認定していない。そして,本件においては,このような特別の事情を有する業者はいなかったから,結局,自由競争が行われたとしても,本件工事の落札価格は松下建設のそれと同じになったはずであり,したがって,本件においては公正な価格を害する目的があったとはいえない。更に,赤松案に従えば,松下建設は落札価格の3パーセントを取得するにせよ,大蔵産業及び河野建設の工事の遂行能力に疑問を抱いていたから,その工事の実施状況を把握するため,工事期間中はほとんど毎日現場監督を派遣する必要があり,その費用(月約30万円として,合計約180万円)を支出せざるを得なかったはずであるから,右3パーセントが松下建設の利得になるとは言いがたく,したがって,本件において,不正の利益を得る目的があったとも言えない。」というのである。

しかしながら,原判決挙示の証拠によれば,被告人らに公正な価格を害し,かつ,不正の利益を得る目的があったことが優に認められ,当審における事実取調の結果によっても,右認定を動かしがたい。

まず,「公正な価格」とは入札を離れて客観的に確定されるべき価格をいうのではなく,当該入札において自由競争がおこなわれたならば成立したであろう落札価格をいい,これを「害する目的」があるというためには,談合により,公正な価格より入札施行者に不利益な価格を形成させる認識があれば足り,公正な価格が数額的にいくらであるかを認識する必要はない。

そして,右の目的は主観的要素である以上,これを認定するためには,談合の参加者が右のような意味での公正な価格を害する認識があったことを認定すれば足り,具体的に落札価格より低い価格で入札したであろう特別の事情を有する業者がいたか,いたとすればその価格はいくらであったかまでを認定する必要はない。

…中略…

以上のような各事実が認められるところ,本件工事において,特に従来の談合又は入札状況と異なった事情は認められず,本件工事についても,松下建設は継続工事であることなどから,大蔵産業及び河野建設は自分の会社のすぐ傍の工事であることなどから,いずれも強い落札の希望を持ち,2回の研究会において熾烈に争い,最終的に,入札開始直前になって赤松案につき合意が成立したという経緯や,例えば,松下建設は自由競争になれば5000万円ぐらいで入札するつもりであったこと(豊廣の検察官に対する各供述調書。これは,最低制限価格が4982万円であったことや,従来の経緯から見ても信用できる。なお,豊廣は,原,当審公判廷において,「右供述は,自分の個人的な意見であって,特に根拠はない。」と言うが,信用できない。)などからみて,本件工事につき,談合がなければ最低制限価格あたりで入札が行われたであろうことが十分推測され,また,従来からの経験にかんがみ被告人らを含む指名業者全員がそのような認識を持っていたことは明らかである。

そうだとすれば,被告人らに公正な価格を害する目的があったと言わなければならない。

次に,「不正の利益を得る」とは,入札に関し,入札業者らが,社会的に是認されない性質,かつ不当と見られる額の利益を得ることであり,例えば,落札予定業者が通常の場合に比して不当に多い利益を得るとか,それ以外の指名業者が競争をしない対価として不当な額の金員その他の経済的利益を得ることが含まれる。

「公正な価格を害する」目的でなされる談合も,「不正の利益を得る」目的でなされる談合も,入札の公正を害するという点では同じであるが,前者は前記のように,対工事施行者との関係で競争による利益を失わせることにより入札の公正を害するのに対し,後者は,公正に行われるべき入札をいわば食い物にすることにより,入札の公正を害するものである。

次に,赤松案により,松下建設が得るものとされた落札価格の3パーセント(約164万円)が不正の利益と言えるかについて判断する。

関係各証拠によれば,赤松案どおりに実施された場合,松下建設は落札価格の3パーセントを取得し,他方,請負業者として,徳島市との間に請負契約を締結して,工事に関する連絡をするほか現場監督を派遣して大蔵産業及び河野建設の行う工事の進渉状況を把握し,市の検査にも立ち会わなければならないし,工事が完成した後も,担保責任を負うことになる。

ところで,右の松下建設の出費のうち,大部分を占めるのは現場監督の費用であるが,これは,松下建設が名実共に請負業者となり,下請業者を使った場合と,赤松案のように松下建設が名義上の請負業者,大蔵産業及び河野建設が実際の工事の施行業者となった場合とでは,後者の方がはるかに少なくて済むこと,すなわち,前者の場合は,請負業者が実質的に,その計算において工事を行い,実行予算や工事の日程を組んだりし,また,現場監督を派遣して,下請業者を直接指揮監督するのに対し,後者の場合には,実際の工事施行業者が実質的に,その計算において工事を行い,実行予算,工事日程を組み,他方,名義上の請負業者は,工事施行業者を直接には監督せず,また,現場監督の派遣はするが,それは外形を作り,かつ,単に工事の進渉状況を把握するためであること,後者の場合は,名義上の請負業者は,工事期間の3分の1ぐらい現場監督を派遣すればよく,1回に要する時間は30分から2時間ぐらいのものであること(北上の検察官に対する供述調書及び原審第9回公判における供述。仮に,現場監督に要する費用を,その給与を含め月30万円,6か月の工事期間のうち3分の1を派遣,1回あたり2時間として計算すれば,約16万円程度)が認められ,赤松案が実施された場合に,松下建設が支出する現場監督の費用は,僅かなもの(北上の右調書及び供述,豊廣の検察官に対する昭和57年3月16日付供述調書)と認められる。

その他の費用は微々たるものであり,また工事に瑕疵があった場合には,その補償費用は,大蔵産業や河野建設が全額負担することになったであろうから,結局松下建設が3パーセントの名義料を取得する代わりに負担する費用は,全体として僅かなものに止まったであろうと推測される(これに反する辻の原審第5回公判廷における供述は信用できない。)。

そして,松下建設を含む本件工事の指名業者も同様の認識を持っていたものと認められる(豊廣から落札の報告を受けた松下建設の代表取締役松下太一は,この3パーセントを大蔵産業及び河野建設に支払ってもよいから自社で工事を施行する方がよいとして,直ちにその旨の交渉をするよう豊廣に命じたことは認められるが,これは松下建設が名義料として得る利益に比し,大蔵産業や河野建設は,大きな建設工事に十分な経験がなく,また,被告人河野が松下建設に対し反感を持っていたため,本件工事に関する紛争,対立が起きる危険があるという不利益の方が大きかったためと認められるから,右認定に反するものではない。)。

そうだとすると,松下建設は,赤松案による名義料約164万円の大部分を自己の利得として取得しえたはずであり(なお,赤松案のような形態の請負は,一括下請の禁止にふれるおそれのある行為でもある。),右は,不正の利益を得るものと言うべく,松下建設の豊廣及び被告人らはこの不正の利益を得又は得させる目的ないし認識があったものと認められる。

結局,論旨はいずれも理由がない。

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